皆さんは、「口唇閉鎖不全」という言葉を知っていますか?
これは日常的に口がぽかんと開いた状態、いわゆる「お口ぽかん」の状態のことをいいます。
2021年に北海道から沖縄まで全国の3歳から12歳の子ども3,399人を対象に行われた調査によれば、口唇閉鎖不全が疑われる子どもは全体の30.7%(おおよそ三人に一人)で、年齢が上がるにつれて、口唇閉鎖不全の子どもの割合が高くなったとの結果が出ています(1)。
1.口唇閉鎖不全の原因
この口唇閉鎖不全には様々な原因がありますが、その中でも主な原因は以下のようなものが知られています(1)(2)。
① 歯並びや歯と口を含めた顎全体のバランス
上の前歯が前に出た状態(出っ歯)や上下の歯と口を含めた顎全体のバランスによって口を閉じることが難しい状態になり、それが原因で口が開きやすくなってしまいます。
② 舌や口周りの筋肉が十分に発達していない
口を動かす時に使う筋肉である「口輪筋」、食べ物を咬む時に必要な「咬筋」など、口周りには様々な筋肉があります。また、舌も筋肉で出来ています。これらの筋肉の発達が十分ではないと口が開きやすくなってしまいます。マスクを着用しての生活の日常化、食習慣の変化など、口を使う機会が少なくなることにより、舌や口周りの筋肉の発達が不十分となると考えられています。
③ 鼻づまりなどの耳鼻科の病気
鼻づまり、アレルギー性鼻炎、咽頭扁桃(アデノイド)肥大などの耳鼻科の病気によって鼻呼吸が出来ず、口で呼吸をすることになり、その結果として口が開いた状態となります。
2.口唇閉鎖不全による影響
口唇閉鎖不全になるとどのような健康への影響があるのでしょうか?
① 虫歯や歯周疾患になりやすくなる(1)
唾液の量が減り口の中が乾燥してしまうことにより、虫歯や歯周病になりやすくなります。
② 歯並びが悪くなる(3)
歯並びは、歯を取り囲む舌や唇、頬の力のバランスが保たれることで安定するといわれています。前歯の位置は舌の圧力と唇の圧力のバランスが関係しています。口が開いた状態が続くと、「唇から前歯にかかる力」が減少します。そうなると、「舌が後ろから押す力」が、「唇が前から押す力」より大きくなるため、前歯が外向きに押され、唇側に傾き、「出っ歯」の状態になりやすくなります。
③ 口呼吸になる(4)(5)
日常的に口が開いた状態になるため、口呼吸が定着しやすい状態になります。口呼吸では、起きるのが難しい、風邪をひきやすい、飲み込みづらいなど睡眠や日常生活に影響が生じる可能性があります。
3. 舌や口周りの筋肉を強くするための体操
口唇閉鎖不全を防ぐ、あるいは、改善させるためにはどのようなことができるでしょうか?
まず、鼻づまりや極端な歯並びの異常がある場合を除き、口が開いてしまっている場合は、舌や口の周りの筋肉を強くすることが大切です。舌や口の周りの筋肉を鍛える体操「あいうべ体操」をご紹介します。「あいうべ」の1セットを4秒前後で、1日30セット(3分間) 行うことが推奨されています。これを行うことにより、唇を閉じる力が強くなり、口元が引き締まるという効果が報告されています。「あいうべ」体操を行う上でのポイントを下に書いています。無理をせずに気軽に行ってみてくださいね(6)(7)。
<「あいうべ」体操を行う際のポイント>
・口を大きく、「あー、いー、うー、べー」と動かします。
・できるだけ大げさに、声を出すのは少しで大丈夫です。
・口を動かすだけでなく意識的に鼻で呼吸することが大事です。
「あー」…普段よりも大きめに口を開けます
「いー」…首に筋が張るくらいまで口を横に広げます
「うー」…口をしっかりと前に突き出します
「ベー」…顎の先をなめる感じで舌を伸ばします
※顎に痛みがある場合は、「いー、うー」のみでも大丈夫です。
4. 最後に
口をぽかんと開けてしまう癖、口唇閉鎖不全は自然治癒が難しく、成長期に定着してしまうと、さまざまな領域に影響を与えます。そのため、早期に発見し、改善することが必要になります。気になることがあればお近くの歯科医院をお訪ねください。
エコチル調査大阪ユニットセンター
歯科 岡本 華奈
<参考資料>
(1) 新潟大学:子どもの“お口ぽかん”の有病率を明らかに -全国疫学調査からみえた現代の新たな疾病-
https://www.niigata-u.ac.jp/news/2021/83290/
(2024/9/4アクセス)
(2) 日本歯科医学会:小児の口腔機能発達評価マニュアル
https://www.jads.jp/assets/pdf/basic/r02/20180301manual.pdf
(2024/9/4アクセス)
(3)日本歯科医師会: 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020
https://www.jda.or.jp/park/index.html
お口の病気と治療 > 口腔習癖(指しゃぶりなど)
(2024/9/4アクセス)
(4) 坂東智子: 口唇閉鎖機能と口呼吸の関連性
九州歯科学会雑誌 60(1):9-23,2006.
(5) 宮川尚之ほか:小児の口呼吸が睡眠ならびに日中の行動におよぼす影響のアンケート調査
小児歯科学雑誌 56(1):19-25,2018.
(6) 全日本民医連:けんこう教室 鼻呼吸でいきいき
https://www.min-iren.gr.jp/?p=46577
(2024/9/4アクセス)
(7) 鹿児島大学:子どもの”お口ぽかん”に対するお口の体操の効果を明らかに
https://www.kagoshima-u.ac.jp/topics/2023/09/post-2088.html
(2024/9/4アクセス)