スポーツに打ち込んでいるお子さんにみられる貧血として、「スポーツ貧血」と呼ばれる貧血があります。
エコチル参加者のお子さんにも、スポーツに励んでいたり、これから運動系の部活動を始められるお子さんも多いかと思います。
スポーツ貧血とは
体内の酸素を運ぶ働きをもつ赤血球や、赤血球中のヘモグロビンの量が少ない状態を貧血といいます。
スポーツ貧血はその名のとおり、激しい運動が原因でおこる貧血です。運動選手などにみられ「アスリート貧血」とも呼ばれますが、実は思春期の子どもたちにもまれではありません。バスケットボールやバレーボール、サッカーや陸上の中長距離走などの、手足を地面やボールに強く打ちつけるような競技や、審美性や体重制限のために減量を必要とする女子体操、フィギュアスケート、レスリングなどの競技、そのほか野球、テニス、ラグビー、空手や柔道など様々な競技でみられます。
スポーツ貧血の病態
スポーツ貧血の主な原因は鉄欠乏です。ヘモグロビンの材料である鉄分が不足して貧血となります。鉄欠乏は、成長に伴う血液・筋肉量の増大を補うための鉄需要の増加、発汗による鉄の喪失、審美的な要素の大きいスポーツや減量のための食事制限により鉄の摂取量が不足すること、運動により筋肉に血液が集まって腸に流れる血流が減り、鉄吸収が低下することなどでひきおこされます。
思春期の女の子では、月経による鉄の喪失やダイエット願望による鉄の摂取不足が影響することがあります。男の子の場合も、運動量が非常に大きいため、注意が必要です。
鉄欠乏以外の機序としては、運動による高体温のもとで赤血球が壊れやすくなることや、足底などへの繰り返す衝撃のために物理的に赤血球が壊されたりすることで血尿をきたす、溶血性貧血が関与することがあります。
表:スポーツ貧血の病態
症状
鉄が欠乏すると、赤血球やヘモグロビンが正常値でも、持久力の低下、意欲や集中力・記憶力の低下などがおきます。さらに鉄欠乏性貧血になれば、疲れやすい、顔色が悪い、動悸・息切れ、頭痛などの酸素不足による症状が加わります。貧血が高度になると、失神、けいれんや、心不全などにつながるので注意が必要です。異常なほどに氷を食べたくなる、氷食症がみられることもあります。
これらの症状がある場合は、病院を受診して鉄欠乏や貧血の有無・程度を調べてみることをお勧めします。
検査
貧血の診断のためには、血液検査をして赤血球の数や大きさ、ヘモグロビンの量、血液中の鉄や貯蔵されている鉄の量などを測定します。
治療
➀鉄剤の内服
貧血になってから食事療法のみで不足している鉄を補うことは難しく、鉄剤内服が治療の第一選択です。鉄として100~200㎎/日を内服します。体内の鉄の貯蔵量が十分に回復するまで、4~6カ月程度は内服を続けます。注射による投与は特別な場合以外は行いません。
②食生活の見直し
発症や再発を予防するため、鉄を多く含む食品を十分にとりましょう。たんぱく質や酸味のある食材、ビタミンC、ビタミンB群などは鉄分の吸収や代謝を助ける働きがあり、一緒にとると効果的です。鉄が強化された食品や鉄のサプリメントなども市販されていますが、過剰摂取や頼りすぎには注意が必要です。偏食や極端なダイエットを避け、栄養バランスのよい規則的な食生活を心がけましょう。
③その他
主治医や、監督・顧問の先生などと相談し、貧血の症状や程度が強い間は、運動を休んだり、強度や量を調整しましょう。スポーツ環境の見直し(温度湿度や足底への衝撃などへの対策、過度な減量の防止、練習時間の改善など)を行い、効率的な練習計画をたてることも、貧血の改善・予防に役立ちます。
図:鉄を効果的にとるための食生活のポイント(資料③④より作成)
最後に
鉄欠乏は徐々に進行するため、症状に気づきにくいという特徴があります。日常生活はこなせていても、競技記録やパフォーマンスの低迷、今までやってきた練習がきつい、などの状況があれば、貧血の存在を疑いましょう。レギュラーから外されてしまうのではないか、意志が弱いせいだと思われないか、、、などの心配から自分ではしんどさを言い出せないことがあるかもしれません。まわりの大人が気づいて、早めの受診につなげられるとよいですね。
エコチル調査大阪ユニットセンター
小児科 野崎 史子
<参考資料>
➀植田高広:スポーツ貧血.小児科診療 83 (2), 183-189, 2020
②渡辺直樹:思春期のスポーツ貧血.日本医事新報(4659) 63-65, 2013
③貧血の予防には、まずは普段の食生活を見直そう e-ヘルスネット(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-008.html
④日本鉄バイオサイエンス学会 治療指針作成委員会編
鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改訂 第3版
(2023.12.25 アクセス)