甲状腺(こうじょうせん)とは、首の前面にある臓器で、甲状腺ホルモンを作って分泌しています(図)。甲状腺ホルモンは、全身の代謝を活発にするはたらきがあり、こどもでは身体の成長や知的な発達にも必要なホルモンです。
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甲状腺にホルモンを分泌するように指令を出しているホルモンが、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)です。甲状腺ホルモンが不足するとTSHは高値となり、甲状腺ホルモンが過剰の場合にはTSHは低値になります。
ここでは、こどもの甲状腺の病気の代表として、先天性甲状腺機能低下症、バセドウ病、橋本病を紹介します。
先天性甲状腺機能低下症
先天性甲状腺機能低下症は、生まれつき甲状腺のはたらきが弱く甲状腺ホルモンが不足する病気です。3,000~5,000人に1人くらいの頻度でみられます。日本では出生後数日で新生児マススクリーニング検査がおこなわれており、多くの場合、TSHが高値を示すことで発見されます。
甲状腺ホルモンの不足は成長や発達に影響するので、不足と診断された場合には、治療として補充療法をおこないます。甲状腺ホルモン薬のレボチロキシンナトリウムを1日1回内服し、血液検査をみながら薬の量を調節します。新生児マススクリーニング検査によって早期発見・治療がされるようになってから、成長発達の予後が改善しています。
バセドウ病
甲状腺ホルモンが過剰になる病気の代表が、バセドウ病です。思春期以降に発症することが多く、女児に多くみられます。バセドウ病では、自己免疫の異常によりTSH受容体抗体(TRAb)が産生されていてTSHの代わりに甲状腺を過剰に刺激することで、甲状腺ホルモンの分泌が過剰になります。甲状腺ホルモンの過剰により、頻脈、体重の減少、手指のふるえ、発汗の増加が起こり、甲状腺の腫大、眼球の突出などの特有の症状がみられます。こどもでは学力の低下、身長の伸びの促進、落ち着きのなさもみられます。血液検査では、甲状腺ホルモン(FT4とFT3)が高値になり、TSHは低値になります。またTSH受容体抗体は陽性になります。
バセドウ病の治療には、甲状腺ホルモンの分泌を抑えて正常化するために、内科的治療、外科治療、放射線治療の3種類があります。こどもでは内科的治療である抗甲状腺薬の内服が第一選択です。完治するまで長期間の内服が必要です。
橋本病
思春期以降に増加し成人の甲状腺の病気としてよく見られるものに橋本病(慢性甲状腺炎)があります。成人では女性の10人に1人、男性の40人に1人がかかるとされます。バセドウ病と同じように、自己免疫の異常によって甲状腺に慢性的に炎症が生じます。この慢性炎症によって甲状腺組織が少しずつ壊され、甲状腺ホルモンが作られにくくなります。甲状腺ホルモンの不足によって全身の代謝が低下し、無気力、疲れやすさ、全身のむくみ、寒がり、体重の増加、便秘、かすれ声などが、また、甲状腺の腫大によって首の圧迫感や違和感がみられます。
治療は、甲状腺ホルモンの不足があれば、内服による補充療法をおこないます。時に、甲状腺ホルモンが血中に流出して一時的に甲状腺ホルモンが過剰となる状態(無痛性甲状腺炎)がみられますが、3か月以内でおさまります。なお、橋本病でも甲状腺ホルモンの過不足がない場合には、原則的に治療は必要ありません。
今回は、甲状腺とその病気についてご紹介しました。バセドウ病や橋本病などの甲状腺の病気は思春期以降に増えてきますので、知っておくと安心ですね。
エコチル調査大阪ユニットセンター 小児科
橘 真紀子