前回のコラムは「百日咳とワクチン」のお話でした。小学校高学年から思春期には、HPV (ヒトパピローマウイルス) ワクチンや日本脳炎ワクチン、インフルエンザワクチンなどの、予防接種の機会も度々あります。
予防接種、大人になっても苦手な方も多いのではないでしょうか。不安や緊張から、気分が悪くなったり失神してしまった経験がある方もいるかもしれません。
痛みや恐怖などの感じ方は主観的なもので、それらストレスへの反応は、年齢や体調などの身体的要因、過去の経験、恐怖心や思い込みなどの心理的要因、そして家族・友人・メディアなどからの情報や周囲の人たちの言動などの社会的要因、などが関係しており、一人一人異なります。
予防接種に関連した、不安などの様々なストレスにより引き起こされる一連の反応として、2019年にWHOから「予防接種ストレス関連反応:ISRR」という概念が提唱されました。どの年代でも起こりますが、思春期という多感な時期にある10歳代のお子さん(特に女の子)に起こりやすいことや、ワクチンの成分による副反応とは異なり接種する前にも起こることがある、といった特徴が知られています。
日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」予防接種ストレス関連反応(ISRR)1)より作成
ISRRは➀接種前・接種中・接種後(5分以内)におこる、急性ストレス反応(動悸、呼吸が早い、のどが渇く、発汗など)や②血管迷走神経反射(血圧低下、息切れ、めまい、失神など)、③接種後何日か経過してから起こる、解離性神経症状反応(DNSR)(手足に力が入らない・動かない、手足の不自然な動き、姿勢や歩き方などの異常、しびれなど、神経に関する説明のつかない色々な症状)があります。
血管迷走神経反射による失神をおこしたことがある方、過去に注射や採血などで痛みや失神などのいやな経験をしたことがある方、注射など医療処置への強い恐怖心、不安障害や発達上の特性、などがある方に起こりやすい可能性があります。
血管迷走神経反射を予防するには、ベッドやリクライニングであおむけに寝て接種したり、接種後しばらく安静にして様子をみる、などの対応ができます。また、安心して接種を受けられるように、信頼している家族や友人などに同席して見守ってもらったり、他の人の緊張した雰囲気の影響をうけたり他人の目を気にせずに済むように、順番待ちや接種が他の人と一緒にならないよう場所や時間を分ける、接種部位に痛みを軽減する薬を塗る、などの工夫でISRRを予防できるものと思われます。接種に対して、特に強い恐怖心があったり、③のDNSRなどが疑われるときは専門家が対応する必要があります。
予防接種に不安のある方は、事前に、接種する医療機関で、対応を相談してみましょう。不安や痛みを和らげる対処をして、できる限りリラックスして接種をうけられるといいですね。
エコチル調査大阪ユニットセンター
小児科 野崎史子
<参考資料>
1)日本小児科学会:知っておきたいわくちん情報「予防接種ストレス関連反応(ISRR)」
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/VIS_A10_ISRR_202203.pdf
2)日本産婦人科医会:研修ノート「思春期のケア」4.思春期の予防接種と接種ストレス関連反応
https://www.jaog.or.jp/note/思春期の予防接種と接種ストレス関連反応/
3)厚生労働省ホームページ 予防接種ストレス関連反応
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000962339.pdf
(2023.4.5 アクセス)