新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で流行し、日本でも3~5 月の第1波、7~9月の第2波、そして、11月から第3波をむかえ、流行の規模は毎回徐々に大きくなっています。軽症者が多いものの、特に高齢者や基礎疾患を持った方々の中には重症化や亡くなったりする方もおられ、依然脅威の感染症といえます。そのため社会全体で感染を拡げないための対策と工夫を継続する必要があります。
一方、子どもに関しては、全COVID-19患者の中で占める割合は少ないですが、感染の拡大に伴ってその割合は当初より増加しており、子どものCOVID-19について、知見が集積されてきました。
子どものCOVID-19
子どものCOVID-19は無症状〜軽症が多く、世界的な報告からも重症は少なく、死亡例はほぼないと言えます。日本では、重症者数の報告は数名で、死亡者は報告されていません1)。症状は、発熱や咳嗽、多呼吸などの呼吸器症状のほか全身倦怠感、嘔吐、下痢などがありますが、無症状で経過することもあり、症状から子どものCOVID -19を鑑別することは難しいです。
子どもは、家族内感染、または何らかの感染経路が判明していることがほとんどですので、周囲の感染状況から疑って検査をするのが最も確実です。また、周囲の感染に留意することで、子どもへの感染を防ぐことができると言えます。
子どもの新型コロナウイルスの感染性
「子どもが成人と比べて感染しにくいのか」について様々な報告が出ていますが、多数の報告をまとめた解析からは、子どもは成人より感染しにくい可能性が示唆されています2)。逆に、「子どもからの感染力は強いのか」については、家族内感染において、子どもからの他の家族への2次感染はごくわずかであったことが報告されています3)。また、学校や幼稚園など、社会において、子どもが感染伝播の中心となることはなく、パンデミック(大流行)を起こすことはほとんどないとされています4)。日本でも家族内、あるいは幼稚園や小学校で、子どもを起因とする感染の流行はほとんどありません。学校や保育施設での小児の感染が契機となって家庭を介し社会へと流行が拡大していくインフルエンザとは大きく異なります。
COVID-19関連健康被害
COVID-19の流行により様々な影響が子どもに及んでいます(図5)。受診控えによる疾患の重篤化や、乳幼児健診の受診が減少し、子どもの心身の問題や親の育児に関して、早期の発見、介入ができない、などです。また、予防接種の差し控えにより、予防可能な疾患の罹患や流行は子どもや社会のより大きな損害となりえます。子どもの抑うつ傾向、情緒障害への懸念や、親のストレスが高まっていることから家庭内暴力や子ども虐待のリスクが増すことが危惧されています。
図5
小児のコロナウイルス感染症2019(COVID-19)に関する医学的知見の現状
日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会 2020年11月11日 第2報 より引用
http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=342
子ども達をまもる
新型コロナウイルスの感染者をゼロに封じ込めることはもはや不可能です。ワクチンによる予防策が功を奏することを切に望みますが、今できることは基本的な感染予防習慣を身につけ、普段から実践することにつきます。マスクの着用、手洗いの励行、Social Distanceの確保を行い、なるべく密閉、密集、密接の「3密」を作らないようこころがけましょう。感染症に強い世の中を皆で作っていくことが大事です。
現状では、子どもは「COVID-19にかかりにくく、重症化しにくい」「感染伝播の主体にはなっていない」「直接的な影響は少ないが、間接的に健康被害を受けている」ということが言えます。したがって、COVID-19罹患リスクを危惧して過度の対策をするよりも、できるだけ通常の子どもらしい日常生活が送れるよう、また、子どもの心身の健康を確保できるよう、環境を整え、子ども達をまもる必要があると考えます。
大阪母子医療センター
新生児科・感染症科 野崎 昌俊
【引用】
- 新型コロナウイルス感染症の国内発生動向 2020年12月16日18時時点 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000706508.pdf - JAMA Pediatr. Published online September 25,2020.
doi:10.1001/jamapediatrics.2020.4573 - Arch Dis Child 2020;0:1–3.
doi:10.1136/archdischild-2020-319910 - Acta Paediatrica. 2020 Aug;109(8):1525-1530
doi: 10.1111/apa.15371 - 小児のコロナウイルス感染症2019(COVID-19)に関する医学的知見の現状
日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会 2020年11月11日 第2報
http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=342
(2021年1月26日アクセス)