お子さんが成長されるにつれて、お友だちと遊ぶことも多くなってくることでしょう。いつまでも赤ちゃんだと思っていたお子さんから思いがけず優しい言葉をかけられて心打たれたり、お友だちに親切にしている姿を見たりした経験はありませんか?今回は、お子さんが相手の気持ちを考えられるようになること、についてお話しします。
相手の気持ちを考えるとは…
大体4歳~6歳頃になると、自分と同じようにお友だちにも心があることに気がつき、「お友だちにはお友だちの考え、気持ちがあるはずだ」と分かるようになります。お友だちの気持ちを考えて行動したり、お友だちの行動を予測したりすることを「心の理論(Premack, D.ら)」と言います。
相手の気持ちを考えられるようになるまでには…
4歳頃から突然他者の気持ちが分かるようになるのではありません。赤ちゃんの頃からお母さんやお父さん、周囲の人との関わりの中で相手の気持ちを考えられるようになるための基礎を身に付けていくのです。
生後9~10ヶ月頃から、「自分・他者・物」の三項関係ができあがってきます。例えば、親が電車を見ていると、子どもも親の見ている視線の先を追ったり、自分が取ってほしいものを指さして知らせたりして、他者と一緒に物に注目できるようになります。その中で子どもは、他の人には自分とは違う興味や関心があることに気がつくようになっていきます。
そして、2歳頃からは見立て遊び、ふり遊びをするようになります。例えば、積木を電車に見立てて「ガタゴト」と音を発したり、箱を乗り物にみたてて「ブーン」と走らせたりして遊びます。この時子どもの頭の中では、以前自分が乗った電車や車を思い浮かべながら遊んでいるのです。こうして、頭の中でイメージを作りながら別の世界を想像することができるようになり、自分とは別の相手の世界を想像できるようになっていきます。
このような遊びを通して、子どもは相手の気持ちを考えるための準備をしているのです。
「心の理論」の成立はどうやって分かる?
心の理論が成立しているかどうかを調べる方法として、現在よく使われているのはBaron-Cohenらが作った『サリーとアンの課題』です。
「サリーが出かけている間にアンがやってきて、サリーがバスケットにしまっていたチョコレートをおもちゃ箱の中に移してしまいました。外から戻ってきたサリーはチョコレートを食べたいと思ったのですが、どこを探すでしょうか?」
このような物語を話して聞かせたり、イラストや人形劇を見せたりして登場人物の考えを推測させます。サリーはチョコレートがおもちゃ箱に移されていることを知らないので、正解は「バスケットを探す」です。サリーが現実(チョコレートはおもちゃ箱にある)とは違った信念(チョコレートはバスケットの中に入っている)を持っていることがわかれば正しく答えることができるのです。大人にとっては簡単に思える課題ですが、3歳頃ではまだ難しく、4歳頃になると相手の気持ちが徐々に分かるようになり、答えられるようになると言われています。
子どもたちは、日々たくさんコミュニケーションを取る中で社会的能力を身につけ、やがて、相手がしてほしいこと、してほしくないことを考えるなど相手の心を考え、理解できるようになります。
大阪母子医療センター エコチル調査室 臨床心理士
楠元 里奈
【参考図書】
長谷川寿一ら(2008) 『はじめて出会う心理学 改訂版』 有斐閣アルマ
小野寺敦子(2009) 『手にとるように発達心理学が分かる本』 かんき出版