国内販売に至るまで
2019年3月、乳児用調製液状乳(液体ミルク)の国内販売、流通が開始されました。
液体ミルクは調乳環境が整っていない状況においても、常温で保存でき、乳児にそのまま飲ませることができるため、災害時にはとても有用です。これまで液体ミルクは、大災害時に援助物資として海外からの製品が届けられていたのが現状でした。 東日本大震災後、日本小児科学会をはじめとするいくつかの学術団体は、大規模災害時における乳児栄養の確保を目的に、液体ミルクの国家備蓄に関する要望書を内閣府に提出するなど、関係部署への働きかけを行ってきました。また、液体ミルクが流通している国で子育てを経験した方などを中心に、一般の方々の要望の声もありました。こうして、液体ミルクの国内製造、販売は待ち望まれていたのです。国内で製造、販売される液体ミルクは、組成は乳児用粉ミルクと同等、保存期間中の成分の変化も許容範囲内で安心して赤ちゃんに与えることができます。特に災害時に利用価値が高いので、すでに災害に備えて備蓄を始めた自治体もあります。
液体ミルクの使用上の注意点
液体ミルクの使用にあたっては、いくつか注意点があります。
•保存にあたっては高温下におかないこと
•期限が切れていないか、容器に破損がないか確認すること
•開封したらすぐに使用し、飲み残しは使用しないこと などです。
液体ミルク vs. 母乳?
液体ミルクはとても便利です。災害時のみならず、その手軽さから、外出時に利用できますし、様々ご意見はあるにしても、男性の育児のハードルが下がるのではという期待もあります。しかし、忘れてはならない大切なことがあります。それは、あくまでも液体ミルク・乳児用粉ミルクは、母乳代替食品であり、平時も災害時も、乳児に推奨されるのは“母乳”であることです。特に、避難所等においては、感染予防も考慮し、母乳育児をしていた方が母乳育児を継続できるような配慮と対応が必要です。母乳の良さを強調しますと、必ずといってよいほど、母乳の不足するお母さんを追いつめる、とか人工乳ではダメなのか、という意見がでてきます。しかし、こどもを育てること、あるいは日々の暮らしにおいて、“あれかこれか”という決めつけの選択をすることはあまり意味がないのではないか、と私は思います。選択肢がたくさんあるなかで、優先順位をつけていく知恵をもっていたいですね。
液体ミルクは、便利な面もありますが、平時も含めて、母乳育児を妨げることのないよう、必要なとき、必要な赤ちゃんに、必要な分だけ、活用することを心がけましょう。
大阪母子医療センター
新生児科 和田 和子
[参考]
1)公益社団法人 日本小児科学会 サイト
日本小児科学会災害対策委員会 日本小児医療保健協議会栄養委員会
「乳幼児調整液体乳(液体ミルク)の使用に関しての注意点」
http://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=108
(2019年6月12日アクセス)
2)NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 サイト
「災害時の乳幼児栄養支援に関する声明:国際ガイドラインに沿った防災対策を」
https://jalc-net.jp/disaster_statement2019.html
(2019年6月12日アクセス)